新人君奮戦日記 


 1.敷地談議 

最終更新 2003. 8. 15

設計事務所の新人見習君に友人から家創りの相談が(ピ、ピンチ)。
設計事務所長と一緒に頑張ります。

 新人君・・駆出しの設計事務所所員くん
 所長 ・・新人君の勤める設計事務所の所長さん(こんなやさしい所長はいないという噂も・・・)
 

 新人君
   あの〜所長・・・。 折り入ってご相談が・・・。

所長 
   ん。 なんだあらたまって。給料なら値上げできんぞ。

 新人君
   いえ、そうじゃなくてですね、実は友人が近く結婚を予定してまして。

所長 
 で、給料の前借をしたいと。

 新人君
   ・・・まあそれもありますが・・・、いやそうじゃなくて、その友人が結婚を期に家を建てたいと相談されているんですが上手く説明できなくて困っているんです。

所長 
 なるほど。 でその友人はもう敷地を購入したのかな、それとも建替えかな。

 新人君
   これから土地を購入する予定で、土地選びから相談に乗って欲しいと頼まれていまして。どんなアドバイスをしたら良いでしょうか。

所長 
   そうだなあ、まずは法律上、家を建築可能な敷地か、それから家を建築しても安全な敷地かが重要だね。

 新人君
   法律上、家を建てられない土地があるんですか。

所長 
   あるよ。例えば道に接していない土地には建物は建てられないし、それから法律で用途地域の指定という規制もある。
 まあ都市部にはまずないけど、農地・山林など、市街化調整地域みたいに主に農業用指定地域の土地には農家の住宅しか建てられないとか、工場専用の地域の土地には住宅は建てられないと言った具合だ。
 他にも建てられないことは無いけど色々と制約が付いている事もある。敷地の境界線から1.5m以上建物を離しなさいとか、高さの制限で3階建てはダメとか、古い町並みを保存するために洋風の建物はダメとかね。あと建ペイ率・容積率も重要だね。

 新人君
 道路に用途地域と建ペイ率・容積率ですか。

所長 
   うん。これは基本中の基本だ。
 まずは道の話だけど法律上は原則として幅が4m以上の建築基準法で道路と認められた道に敷地が2m以上接していなければいけない事になっている。

 新人君
   道路の幅が4m以上ないといけないんですか。僕の実家の前の道は3mくらいしか幅が有りませんよ。

所長 
   そういうケースはよく有るよ。そういう場合は今度建替えをするとき将来道路を4mにするために敷地の一部を使わずにおいておかないといけない。
 建築用語では「セットバック」と言うんだけどこのケースだと君の実家と向かいの家がそれぞれ今の道路際から50cmの範囲内の土地は将来道路になるからその部分に原則として塀や家を作ってはいけないと言うことになる。

 新人君
   でも、なんで4mなんでしょうね。

所長 
   お、いいこと聞くね。理由としては自動車が何とか対向出来て、さらに大型の消防自動車などが進入できる道幅と言う事らしくて自動車の大きさを基準に考られいるようだね。個人的には大阪の法善寺横町みたいなヒューマンスケールの路地も道として認めてもらいたいものだけどなかなか難しい。

 新人君
   あとは高さの制限と建ペイ率・容積率でしたっけ。

所長 
   建ペイ率・容積率は土地に建てられる建物の大きさの上限を決めたもので、例えば土地に建ペイ率60%と指定されていると土地の面積のうち60%しか建物に使えないし、容積率80%と指定されていると建物の各階の面積の合計は土地の面積の80%までに収めないといけないという決まり。目当ての土地に最大でどの程度の家を建てることができるのか決められているから、必ずチェックしておきたいポイントだね。
 高さの制限は法律で用途地域別に制限を決めていて、最高mまでといった絶対高さの制限や接している道路幅・隣地との距離・北側境界からの距離などによって決まる斜線制限により定められている。これは景観や日照に関して良好な環境を維持するためのものだよ。

 新人君
   ふわあ、あれもダメこれもダメ・・・なんか大変ですね。

所長 
   おいおい、こういう事を調べるのも建築士の仕事だろ。土地を購入してから「あれもダメこれもダメ」って事にならない様に土地の購入前にチェックしておく事が大事なんだよ。

 新人君
   そうですね。でもどうやって調べたらいいんですか。

所長 


   大抵の事は土地の有る市区町村役所の都市計画課で聞けば教えてくれるし、あと不動産業者から土地を購入する場合はそういった事をまとめた資料を必ず出してくれるからそれで確認するといいよ。そういった資料を出して説明してくれない不動産業者から土地を買うのは避けたほうがいいね。
 それから、まだまだほかにも土地にはさまざまな制約や条件があるから、不動産業や開発業者の説明だけで済まさずに建築の専門家として君自身もちゃんと調べるようにね。

 新人君
   はい。 えっと、あとは安全な敷地でしたっけ。

所長 
   そうだね。敷地の安全性の事で良く耳にするのは地盤についてと自然災害についての事かな。
 地盤が沈んで家が傾いたとか洪水で家が水浸しになったという話はよく耳にするね。

 新人君
   そうですね、友人も地盤の事が気になるようです。

所長 
   地盤が沈んでいくことを「地盤沈下」と言うけどその中でも、家が歪んだり傾いたりと言った被害は「不同沈下」と言われる地盤沈下が原因だ。
 「不同沈下」は様々な原因で家を支える地盤がある場所では大きく沈みある場所ではあまり沈まないという現象でこれがおきると、その上にある建物の基礎や更に上の建物が歪み、建具が開け閉めできなくなったり、ひどい時は建物を使えなくなる事もある。

 新人君
   なるほど、「不同沈下」は何が原因なんですか。

所長 
   「不同沈下」の原因は色々あるけど、最近よく聞くのは造成地や池なんかを埋め立てた土地だ。
 造成地は元の地山を切り崩して土地をつくるのだけど、その際どうしても地山を削った部分と新たに土を入れた部分が出来る。建物がそれぞれにまたがって建てられると、土を入れた側は地山 側より土地の強度が弱いため次第に下がると言う具合だ。
 また、池を埋め立てたようなそもそも軟弱な地盤では建物の重量の偏り、たとえば2階建ての建物の2階が1階の一部に乗っている場合など、重い部分の乗る側が下がってしまう事になる。

 新人君
   大変な事になりますね。

所長 
   そうだね。いったん建物が沈んでしまうと元に戻すには大規模な工事が必要で、かなりの費用が掛かってしまうから、建物を建てるときは事前に標準貫入試験やスウェーデン式試験などの地盤調査を行ってその結果を元に地盤改良や基礎の設計を行う必要がある。

 新人君
   でも未だ購入してない土地で調査を実施するのは難しくないですか。費用も掛かりますし。

所長 
   本来は土地の購入前に地盤を確認した方が良いのだけれど、そう出来ない場合は敷地の様々な周辺状況から推測することになるね。例えば敷地周辺で不同沈下が原因の被害が出ていないか歩いて回ったり、ご近所さんに話を聞いたりするといい。
 また、市区町村役所の都市計画課にある昔の航空写真を見せてもらって、昔の敷地周辺の状況を確認するのもいいね。昔の敷地周辺が田畑や沼地などだったら地盤改良等が必要な敷地である可能性が高い。また、そう言った地域の場合地名に「田」や「沼」など軟弱地盤を連想するような地名がついていることがあるので、参考にすると良いよ。

 新人君
   あと、地盤の話をご近所で聞くときに自然災害についても聞いたらいいですね。

所長 
   うん、そうそう、さっきの都市計画課でも自然災害についての情報は教えてくれるけど、ご近所の生の声はとても参考になるよ。

 新人君
   わかりました、今度の休みに友人と敷地を見にいってきます。

所長 
   うん、あっ、それから敷地の日照や通風、水はけなんかも当然ちゃんと確認しなきゃいけないよ。

 新人君
   はい。わかってますよ。

所長 
   ほんとかねェ・・・。

 【その2 見積り談義へ】 
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