新人君奮戦日記
その2 見積り談義
最終更新 2003. 8. 30
設計事務所の新人見習君に友人から家創りの相談が(ピ、ピンチ)。
設計事務所長と一緒に頑張ります。
新人君・・駆出しの設計事務所所員くん
所長 ・・新人君の勤める設計事務所の所長さん(こんなやさしい所長はいないという噂も・・・)
新人君
はあ・・・、建物の値段ってどう見積もればいいんですでしょうか・・・。
所長
いきなり難しい質問だね。友達にたずねられたのかな。
新人君
ええ・・・、いろいろアイデアは打合せの中で出てくるんですが、アイデアを実現すればいくら予算アップが必要とか、こうすれば予算ダウンが出来るのかとか聞かれるんですがうまく答えられなくて・・・。
所長
なるほど、企画段階での予算調整は経験がないとなかなかむずかしいね。まあ経験豊富な設計士でも企画段階で具体的な工事金額を出すのは難しいんだけどね。
新人君
そうなんですか・・・。
所長
まあまあ、そう気を落とさずに(笑)
まずは予算計画とデザイン設計の進め方の大きな流れを説明しようか。住宅建築予算全体が決まっているのが普通だからそこからはじめるよ、住宅建築予算全体の中から土地の購入費用、建物や土地登記に関する費用、引越しや仮住まいの家賃などの緒費用を引いたものが建物の建築費になるのだけれど、それはわかるね。
新人君
はい。
所長
建物の建築費の中からさらに土地の地盤改良や擁壁の設置、杭基礎などの設置が必要な場合はその費用を引かないといけないし、庭や門、植栽など外構工事の費用あと、設計事務所に支払う設計・監理料も引いておかないといけない。
これらの諸費用を引いた残りの予算を計画の建物の坪数で割ると「予算の坪単価」がでてくる。
新人君
あ、「坪単価」って言葉はよく聞きますね。
所長
そうだね、「坪単価」は住宅工事の見積もりではよく利用される方法で企画段階では建築総額の算定が簡単で特に建物の面積変更を伴う時などは便利なものだね。
新人君
でも「坪単価」の値段ってやたら金額に開きがないですか。
所長
「坪単価」の基本は的過去の建築費の実績金額を坪数で単純に割ったものを平均した経験に基づいて算出するのだから材料価格や設備機器の価格などの影響で元になる建築費が高くなれば当然坪単価は高くなる。それからその元になっている建築費の内訳がはっきりとしない部分があるのと、バルコニーや吹抜けの取り扱いなど坪数のカウントの仕方にばらつきがあるのも金額に開きがでてくる。
建築費の内訳がはっきりとしないと言うのは、例えば極端な話だけど総二階建て延べ100uの家と平屋建て延べ100uの建物を比べると、総二階建ての建物の場合は屋根と基礎が約50uで済むけど階段が必要になる、平屋建ての建物は屋根と基礎が総二階建ての倍の約100u必要で階段は不要になる。この2つの建物の坪(約3.3u)当りの工事金額が同じと言う訳にはいかない。
今の話は極端な例だけどもっと身近な話だと、同じ大きさの建物でも間取りが変れば窓や建具の枚数、外壁の長さなどは変化するし建築費も増減が生じる訳で、同じ「坪単価」で工事契約すると良心的価格設定の工務店でも建主が工事金額を得する場合と損する場合が出てくる、場合によっては大きく損をする場合もある。
もう1つ、「坪単価」は過去の経験や実例を元にしているため、経験、実例の無い工事に関してはうまく対応できないのも事実で、またそもそも坪単価のなかに何が含まれているかがわかりにくく、「坪単価」は安くても極端な例「網戸・雨戸は坪単価に含まないので追加工事です」と言われたり「小屋裏収納は別途」、ひどい時には「キッチンやユニットバスは坪単価に含まれません」と言うケースもある。
工事者側から見ると便利な見積もり方法だけど、建主側からすると坪単価に何が含まれていて何が含まれていないか解りにくい部分が多いのが実際かな。
もっとも、坪単価がまったく信用できないものと言うわけではなくて、ハウスメーカーはもちろん工務店の中にもコスト管理を徹底し適正な建築費を算定可能な状態にしているところがあるけど、やっぱり「坪単価」は「既製品」的な建物にしか適用できない、いわゆる建築家やデザイナーさんのような「特注品」に適用するのは無理があると思うね。
新人君
はあ・・・、じゃあ結局、建物の値段ってどう見積もればいいんでしょう。
所長
最終的には数量積算といって実際に使う材料の単価、数量や工賃を拾い出して合計する方法が最も確実だろうね。この方法だと単価、数量や工賃がどこにいくらかかっているか一目瞭然になるから、例えば予算オーバーの場合この材料をもう少し単価の安い物にしようとか、予算に余裕があるからこの部分はもう少しこだわった仕上げにしようとかと言った、建築費の調整が可能になる。住宅以外の建物の建築費の算定はこちらの方法が主流だよ。
新人君
ところでそれは誰がするんですか。
所長
・・・・君だよ。
実際には計画初期段階から「予算の坪単価」を意識しながら実施設計と平行して設計事務所が設計積算作業を進める事になる。この設計積算の作業は「予算の坪単価」とかけ離れない設計図面を作成するためと、後々、最終の工事契約金額決定用に工事業者が作成した工事代金の見積書の内容のチェックの為に欠かせないものだよ。
それから、この数量積算をするには数量の拾い出しが漏れなく行える様にきちっとした実施設計図面が必要になる。
新人君
家の全部を図面にするんですか?
所長
そう、全ての材料、数量や工賃を拾える様に図面を描かなくちゃいけない。
そういう実施図面があれば例えば3社の工事業者に合見積もりといって、それぞれの工事業者から見積もりを取る場合でもそれぞれ全く同じ基準で工事代金の見積を取ることが出来るのでそれぞれを比較検討して予算の合う業者を探す事もできる。
「坪単価」見積もりの場合はさほど図面の数は必要としない代わりに合見積もりを取ってもその建物の内容が同じにはならない事が多いね。
新人君
なるほど、図面に無い部分は工事業者任せの部分になるという事ですか。
所長
そうなるね。だからちゃんと図面を描いておかなければいけない。
新人君
う〜ん・・・。
所長
まあ、そう、りきまずに。うちの事務所にある過去の見積書を見たり、メーカーに問い合わせたりして設計積算作業を進めてごらん。
あ〜、ただし友人からの質問には次回の打合せの時までに答えを出しておくようにね。協力は惜しまないよ。(笑)
新人君
よろしくおねがいします。
【 つづく 】
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