地震対策と耐震補強(在来木造編)



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 新築時の耐震計画 

最終更新 2007.11.21

新築時の場合、上の7つの耐震上の欠点を常に念頭におき、建物全体の耐震性能を向上ためにはどうすべきかという総合的判断を保ち続けることがポイントとなります。

新築時の耐震計画として一般的なものは、やはり建築確認申請書に添付する構造計画に関する書類です。(木造2階建て住宅の場合は原則添付不要です)

大規模な木造建築や鉄骨造、鉄筋コンクリート造等の建物の場合でしたら、構造計算書と言う書類を添付します。また、木造住宅の場合は構造計算よりも計算が簡略な壁量計算という方法も建築基準法では認められています。一般に木造2階建てまでの建物は壁量計算が採用され、木造3階建てでは構造計算が採用されています。

両者とも必要壁量算定の基本的な考え方は同じですが、基準法の壁量計算は水平力(風及び地震)の2/3を耐力壁が負担(残りの1/3を非耐力壁が負担)するものとして壁量計算を行うのに対し、構造計算では、全水平力を耐力壁に負担させるため、壁量計算を行った同じ建物に構造計算を行うとその計算結果の必要壁量は1.5倍となり1.5倍の耐力壁が必要という結果がでます。

また、壁量計算は正方形や長方形の平面形状の建物を想定して簡略化された計算方法ですので「L字型」や「コの字型」、「細長い長方形」、「大きな吹抜け」といった特殊な平面形状にはそのまま適用すると精度が低下します。この場合は平面形を分割して耐震性を検討するか構造計算を行う必要があります。

一般に住宅の耐震性能を表現する場合、「この建物は基準法を満たしている」と言ったり、「この建物は必要壁量の3倍の壁があります。」とか言いますが、それがどの程度の安全性かと言うことは解りにくいのが実際です。そこでその当たりを整理すると次のようになります。


壁量計算や構造計算

現在の構造計算法では2タイプの耐震目標が設定されています。


1次設計では

中地震(耐用年数中に数度は遭遇する程度の地震)に構造部材の許容応力度内で耐えられる設計

となっており、一般木造住宅はこの検討のみを行います。

簡単に言うと50年〜100年間で数回経験する震度5程度の地震では建物の構造体には全く被害が無く外壁のクラック等の補修のみでそのまま建物を使い続けられる設計


2次設計では

大地震(耐用年数中に1度遭遇するかも知れない地震)で倒壊しない設計

100年に一度有るか無いかという震度6程度の地震で建物の構造体に大きな被害は出るが建物は倒壊せず圧死者を出すことは無い。大規模な補修又は再利用は出来ない設計


と言う様になっています。

これを見ると「えっ、そんなに低い震度なの」と思いませんか?。阪神淡路大震災の際の最大震度7に比べるとずいぶん低い値です。

また、なぜこの程度の新耐震基準で設計された建物が実際は倒壊を免れたのかと言う疑問も沸いてきます。

結論から言いますと、チョット荒っぽい言い方ですが、そもそも地震と建物の関係に関して全てが明らかになっている訳では無く構造計算方法には元々安全側に余裕が設定してある為と言って良いと思います。

ちなみに震度6と言うのは「関東大震災級」の地震想定です。ところで東海地震が予測されている静岡県では建築基準法の規定に割増して基準を設けています。


建築基準法により建物を設計する場合の地震の力の計算式

Ci = Z × Rt × Ai × Co

Ci : 地震層せん断力係数
Rt、Ai : 建物の振動特性値
Co : 標準層せん断力係数 (一次設計では0.2)

静岡県の場合の割増は

Ci = Zs × Rt × Ai × Co × I

Zの後に(s)が付いて用途係数(I)と言う項目が増やされています。

用途係数とは建物の用途によって決まる係数で、災害時に防災拠点となる、庁舎・学校・病院・警察署・消防署・発電所といった建物や地震被害が周囲に問題を引き起こす危険物の倉庫、利用者が避難困難な児童・老人福祉施設など、地震後も建物の機能を保持する必要のある公共建築物が適用を受け、通常の構造計算よりも強い地震力を建物が受ける想定で設計されます。

係数の値は、上記の様な公共建築では1.25を、その他の建築物では1.0を採用します。

またZは地域係数と呼ばれ建築基準法では概ね1.0(関東・東海・中部・近畿)、0.9(北海道、東北、中国、四国)、0.8(九州)、0.7(沖縄県)を採用しますが、静岡県の地域係数Zsは1.0〜1.2を採用します。

つまり静岡県において最も厳しい耐震基準の数値を採用すると。

Ci=1.2×Rt×Ai×Co×1.25=  1.5×(Rt×Ai×Co)

近畿地方の場合は

Ci=1.0×Rt×Ai×Co=  1.0×(Rt×Ai×Co)ですので

その差は1.5倍になります。

表にまとめると下の様になります。

  ※ 壁量計算により計画した場合で近畿地方を基準に比較しています。
  壁量計算の必要壁量 構造計算の必要壁量
施行令第46条の壁量計算で計画 1.0倍 (0.67倍)
構造計算ルート1で計画 1.5倍 1.0倍
構造計算ルート1でZs=1.2を採用 1.8倍 1.2倍
構造計算ルート1で Zs=1.2 と I=1.25 を採用 2.25倍 1.5倍

この壁量計算上の必要な壁量の2.25倍と言う数字の意味をもう一度言葉で説明すると。

非耐力壁の耐震性能は無視し計算外の余裕として取り扱った上で、想定される東海地震で最も被害が大きい地域において被災後も構造体は無傷であり建物は外壁等の軽微な補修で引き続き使用が可能な程度の耐震性を保有している。

と言うことになります。

但し、これは、耐力壁の配置が適切で、施工も確実に行われた場合の話なのでその辺の検討は必要です。

この様に新築の場合、建物に加わる地震力の想定を建て主さんが任意に割増することにより建物の耐震性を高めた設計を行う事が可能です。例えば2.25倍と言わず5.0倍で設計することも可能です。ただし過剰に割増すると、壁だらけの建物になり、建物の利便性が犠牲になりますので注意が必要です。

尚、実際の新築時では2.25倍というのは過剰気味と言えますが、屋根が瓦葺(葺き土無し)の内壁ボード壁、外壁モルタル壁の重めの建物なら1.5倍程度を、屋根が瓦葺(葺き土有り)の内壁・外壁土塗り壁の非常に重めの建物なら1.8倍程度の性能は経年劣化を考えると確保することをお勧めします。


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